調査のやり方――統計データ・市場規模

まずは、森全体を俯瞰するように、大きな視点から市場を捉えましょう。公的機関が発表している信頼性の高いデータを利用します。

  • 経済産業省「電子商取引に関する市場調査」: 国内のEC市場規模やEC化率の最新動向を把握できます。自社が参入するジャンルの将来性を確認しましょう。
  • 総務省統計局「家計調査」: 年代別・品目別に、人々が何にお金を使っているかがわかります。ターゲット層の消費行動のヒントになります。
  • 業界団体のレポート: アパレル、食品、化粧品など、各業界団体が市場動向レポートを公開している場合があります。

モールランキング・トレンドキーワード

次に、もう少し解像度を上げて、競合が集まるECモール内の動向を探ります。お客様の「今」の興味関心がわかります。

  • ECモールのランキングを定点観測する: 楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングのジャンル別ランキングを毎日チェックしましょう。どのような商品が、どのような価格で、どのくらいのレビュー数で売れているのかを把握できます。
  • トレンドキーワードを調べる: Googleトレンドや、各モールの検索窓に出てくるサジェストキーワード(「〇〇 おすすめ」「〇〇 ギフト」など)は、顧客ニーズの宝庫です。

レビュー・価格・配送日数を比較

最後は、ライバル店を1つひとつ徹底的に分析します。お客様が「なぜその店で買うのか」を明らかにします。

競合分析シートを作成し、最低でも5〜10店舗の情報をまとめましょう。

分析項目自社A店B店C店
主力商品の価格
レビュー件数・平均点
送料・送料無料ライン
配送リードタイム(お届け日数)
商品ページの強み

特に低評価レビューには、顧客の不満や未解決のニーズが隠されています。自社がその不満を解決できれば、大きなチャンスになります。

SWOT分析で強みと弱みを整理

調査で集めた情報を元に、自社の現状を客観的に分析します。SWOT分析は、今後の戦略を立てるための土台となります。

  • 強み (Strength): 目標達成に貢献する自社の長所(例: オリジナル商品、品質の高さ)
  • 弱み (Weakness): 目標達成の障害となる自社の短所(例: 価格が高い、ブランド認知度が低い)
  • 機会 (Opportunity): 自社にとって追い風となる外部環境の変化(例: 市場の拡大、競合の撤退)
  • 脅威 (Threat): 自社にとって向かい風となる外部環境の変化(例: 新規競合の参入、法改正)

STPでターゲットを絞り込む(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)

すべての人を満足させることはできません。市場を細分化し、自社が最も価値を提供できる顧客層に狙いを定めます。

  1. セグメンテーション(市場細分化): 市場を年齢、性別、ライフスタイル、価値観などの切り口でグループ分けする。
  2. ターゲティング(狙う市場の決定): 細分化したグループの中から、自社の強みが最も活かせる、魅力的な市場を選ぶ。
  3. ポジショニング(立ち位置の明確化): ターゲット市場において、競合とどう差別化し、顧客にどう認識されたいかを決める。

ペルソナシートの書き方

ターゲット顧客を、まるで実在する一人の人物かのように具体的に描き出したものが「ペルソナ」です。ペルソナを設定することで、チーム内での顧客イメージのズレを防ぎ、施策の精度を高めます。

  • 名前、年齢、性別、職業、年収、居住地
  • ライフスタイル、趣味、価値観
  • 抱えている悩みや課題 (Needs)
  • 普段利用するSNSやWebサイト
  • なぜあなたの商品が必要なのか?

お客様のジョブ(JTBD)を掘り下げる――課題と利用シーン

「顧客はドリルが欲しいのではない。穴が欲しいのだ」という有名な言葉があります。これがジョブ理論(Jobs to be Done)の考え方です。
顧客があなたの商品を「雇用」して、片付けたい「用事(ジョブ)」は何か?を考えます。

  • 機能的ジョブ: 特定のタスクを終わらせたい(例: 美味しいコーヒーが飲みたい)
  • 社会的ジョブ: 周りからこう見られたい(例: コーヒーに詳しい人だと思われたい)
  • 感情的ジョブ: こう感じたい(例: コーヒーを淹れる時間でリラックスしたい)

ペルソナの「課題」と、商品を「利用するシーン」を深掘りすることで、本当に響くメッセージが見えてきます。

ニッチ発見グラフの作り方(レビュー点数×価格)

競合調査の結果をグラフにプロットすることで、ライバルが少なく、かつ顧客満足度が低い「狙い目の市場(ニッチ)」を視覚的に発見できます。

  1. 縦軸に「レビュー点数」、横軸に「価格」をとる。
  2. 調査した競合商品をグラフ上にマッピングする。

「価格が高いのにレビュー点数が低い」ゾーンは、品質やサービスに不満を持つ顧客がいる可能性が高く、大きなビジネスチャンスが眠っています。

事例:食品・アパレル・小型家電の勝ちパターン

  • 食品: 「訳あり」「大容量」といったお得感の訴求や、特定のニーズ(アレルギー対応、オーガニック)に特化する。ギフト需要を捉えたパッケージやストーリーも有効。
  • アパレル: 特定の体型(低身長、高身長、プラスサイズ)やライフスタイル(ママ向け、オフィス向け)に特化する。着回し提案や、素材へのこだわりを伝える。
  • 小型家電: デザイン性の高さや、特定の機能(静音性、省エネ)を尖らせる。丁寧な使い方ガイドや、充実したアフターサポートで信頼を獲得する。

よくある質問(FAQ)

Q1. 市場調査には、どのようなデータを見れば良いですか?

A1. まずは、経済産業省や総務省が公表している統計データで、市場全体の規模や将来性といった大きな流れ(マクロな視点)を掴みましょう。その上で、Amazonや楽天市場などのECモールで、実際にどのような商品が売れているのか、ランキングやレビューを分析する(ミクロな視点)ことで、より具体的な顧客ニーズが見えてきます。

Q2. 競合がすでにたくさんいる市場でも、参入する価値はありますか?

A2. はい、価値はあります。競合が多いということは、それだけ市場に需要がある証拠です。重要なのは、競合他社のレビューを徹底的に分析し、「顧客が何に満足し、何に不満を感じているか」を明らかにすることです。その「不満」を解消できる商品やサービスを提供できれば、後発でも十分に勝機はあります。

Q3. 「ペルソナ」は、なぜ設定する必要があるのですか?

A3. 「すべての人」をターゲットにすると、結局誰の心にも響かない、ぼんやりとしたメッセージになってしまいます。年齢、性別、職業、ライフスタイルなどを具体的に設定した「ペルソナ」という一人の顧客像を描くことで、その人に語りかけるように、商品やサイトのコンセプト、メッセージを明確にすることができ、結果として購入率の向上に繋がります。

Q4. SWOT分析やSTP分析は難しそうですが、やるべきでしょうか?

A4. はい、ぜひ取り組んでみてください。これらの分析は、自社の「強み」と「弱み」、市場にある「機会」と「脅威」を客観的に整理し、どの市場(セグメント)を狙うべきかを明確にするための強力なツールです。感覚だけに頼らず、こうしたフレームワークを用いることで、戦略の精度を大きく高めることができます。

Q5. 小さな市場(ニッチ市場)を狙うメリットは何ですか?

A5. ニッチ市場は、大手企業が参入しにくい小規模な市場であるため、競争が比較的緩やかであるというメリットがあります。特定の深い悩みや要望を持つ顧客層にターゲットを絞ることで、価格競争に巻き込まれることなく、高い顧客満足度と利益率を実現しやすくなります。

次のステップ

ECビジネスにおける成功は、精緻な「市場調査」と「顧客分析」から始まります。感覚に頼るのではなく、公的機関の統計データやECモールのランキングといったマクロとミクロの視点から市場を客観的に分析し、顧客の真のニーズを掴むことが重要です。

次の章ではECでの商品の作り方や仕入れについて学んでいきます。